ごめんなさい、私もあなたと同じ病気なの
 もしもし? あのー「高沖さんの・・・」電話の向こうの声は、小さく心なし震えた寂しい感じのする女性の声である。私は思わず受話器を、両手で耳に押しあててる。「はい、高沖です」。相手の女性は、私であることを確認するように再度「高沖さんですね」と、先程の声より幾分か和らいで聞こえた。「あのー、広島のMですがー」、少しご年配のM婦人からである。

 M婦人との手紙のやりとりは、かれこれ2年になるであろうか。息子夫婦と同居していて、お孫さんは隣の町にいると云う。このところ息子さんは、単身赴任でたまにしか帰って来ないと云う。

 M婦人は、お若い頃から無農薬食品のお仕事をしておられたという。この病気になられてからも、しばらく働いていらしたようですが、身体のあちこちに病の症状があらわれ今は、お仕事から身を退かれたとおっしゃっていた。

 M婦人から始めてお電話をいただいた時の話は、若い頃から無農薬食品を食べていたのだけれど、どうして、こんな病気になったのでしょうと言うお話だったと思う。それからは、ほとんど身体の痛みの会話となった。私自身も身体の痛みに、ほどほど悩まされていたこともあって、会話の内容はおのずとこの病気の症状の一つである”痛み”であった。

 私が痛みを感じるようになったのは、確かではありませんが、3年位前であったでしょうか。右ひじの関節通で、どんな痛みかと聞かれれば、少し難しいのですが、例えば関節の上に氷をのっけたままの状態ですね。Lドーパを服用して、その痛みがピタッと消え、信じられませんでしたね。魔法のお薬としか、言いようがありませんでしたね。

 M婦人は、このところ爪先が内側に曲がって、歩く時に特に痛く、後にひっくり返りそうになるので、お散歩の時はいつも息子さんのお嫁さんに、側についてもらっていると言っていらした。

 最近は痛みが、大分すすんできてしまったのでしょう。・・・お話はいつも、「そちらでは、何かいいことは、ないでしょうか」「何かいい食物は、ないでしょうか」・・・・・・悲しいかな、私も、あなたと同じ病人なの・・・・・・。M婦人にお薬のことについて尋ねた。「今、どんなお薬を飲んでらっしゃるのですか」と、M婦人は「Lドーパ4錠とドミンを4錠」とおっしゃった。

 私が、「ドミンは眠くなりませんか」とお聞きすると、「いいえー」とお答えになったのには驚きました。それで私はもう一度「そうですか?」と尋ねると、やはり「えー、そんなことありませんよ」とおっしゃる。今度は逆にM婦人から、「おたくさんわ?」と聞かれ、一瞬とまどってしまった。何故かと言いますと、私はドミンを夜寝る前に服用していますが、とても眠くなって、時には眠ってしまうことが度々あるものですから。

 電話、手紙等の終わりにはいつも「そちらの方で、何か、良い事ありましたら教えて下さい。お頼みします。」と・・・。

 M婦人は時折、ご家庭のお話を聞かせて下さいます。その中で一番、心に残った言葉があります。それはつぶやくようなお声で、「嫁に世話になって、ほんまに世話になってしもうて」と、申し訳なさそうなため息に似たものでした。きっと、お嫁さんにささえて頂いて感謝のお気持ちが、あの『世話になって』の中に、いっぱい入っていたのでしょう。

2000/3/10