おまえらには笹針だあ!
PART U

 発売窓口は混み合っていた。締め切りまで後5分。オレの前の若いカップルがイチャついていて、いっこうに馬券を買わない。
温厚なオレも、いい加減キレそうだ。
 「ネェネェ、ジローちゃん、どのおうまさんが勝ちゅの?」
 「そんな、ボクだってわかんないよぉ〜」
 ウラナリみたいなにいちゃんと、まるで誰かを驚かそうとしているとしか思えないバケモノ化粧のねえちゃんのカップルだ。
 第35回北九州記念(GV)、オレはアンブラスの逃げとトゥナンテの差しで決まりと確信を持っていた。
 だから、早くしてくれと地団駄を踏む。時間がなく、今更ほかの窓口には行けないのだ。
 「ネェネェ、あたちのダイチュキなジローちゃんだから A−E にしようよ。2と6でジロー、いいじゃん!」
 「そうだな、そうだ、そうだ。ミミはあったまいい! オレはジローだから、枠でA−Eだ!」
 全く頭の悪いガキどもだ。バア〜カ! A枠のトゥナンテはいいとして、E枠のツルマルガイセンとロサードなんか絶対に来るものか! これだから、シロートはいやだ。
 なおも、オオバカものどもはほざいている。
 「A−Eって当たるといくらになるの? えっ、50倍以上。 じゃあ、5000円買お!」
 「よぉ〜し、じゃあ帰りにイタメシ食って、そんでもって、ミミにプラダのバック買ってあげて、そして今夜は夜景の見えるホテルに泊まろう」
 バカもここまで来ると救いようがない。オレは辛うじて買えた自分の馬券を握り締め、人目もはばからず、抱き合うようにして去って行くカップルに哀れみの視線を向けた。

 ・・・・・・・・・レースは終わった。
 トゥナンテはいいとして、なんと、ロサードが来てしまったのだ。枠番連勝A−E 5210円。
 あのアホカップルは、確か5000円を買っていた。と、いうことは・・・・・?
    「ええい! おまえら二人には笹針だあ!」