【全国パーキンソン病友の会福岡大会での若年性部会の発表内容】

1.要求と貢献のバランスを保つ社会参加
 パーキンソン病患者は千人に一人の割合で発症し、全国におおよそ12万人いると言われています。その内の40歳までに発症する患者を『若年性パーキンソン病患者』と呼び、患者数は患者総数の5%と言われています。確かなデータはありませんが、発症の原因は世の中の目まぐるしい変化やストレスが原因では無いかとも言われています。年々、増加の傾向にある『若年性患者』に対して、国の対策や制度は全くといっていいほど整備されていません。そこで、全国パーキンソン病友の会としても、若年性患者の要望により、『若年性部会』を昨年立ち上げたところです。

 そして、この全国大会で初めて『若年性の問題』を取り上げて頂くことになりました。私たち若年性部会が中心となって、昨年12月から今年の1月にかけて、友の会に在籍する若年患者(60歳未満)733人にアンケート調査を実施しました。回収部数は309部、回収率約43%でした。このアンケートの集計結果を見ると、一応の方向性は見えてきたのではないかと思います。では、アンケートの内容に沿って問題点について発表させて頂きます。

 アンケート調査の内容は、主に、「問題と感じていること」、「特定疾患治療研究事業について」、「医療費」、「身体障害者手帳」、「障害年金」、「職業」で、その中で、今日の報告では主に就労について報告します。

 図1をご覧ください。若年患者が抱える問題として、@就労A就学B結婚C出産(育児、子育てを含む)D子供の将来E治療にまつわる悩みF主治医との関わりGその他を選択肢としました。全体像で見ると、『治療にまつわる悩み』がトップで、2番目に『就労』の問題がきています。
 今、お見せした図では、『治療にまつわる悩み』と『主治医との関わり』の合計が38%を占めていますが、これはパーキンソン病患者全体の問題でもあり、若年特有の問題とはいえません。今回は、若年患者の問題という事で考えましたので、そうなると就労問題(25.3%)が若年の問題でトップになります。

若年患者の抱える問題図1〜3
(図1)
図1

男女比
(図2)
図2

(図3)
図3

 図2・図3を見て頂くと分るように男女比で見ると男性は圧倒的に就労に、女性は治療にまつわるところに問題意識があることが分ります。この男女の問題の差は何処にあるのでしょうか。

図4&図5

 図1はアンケート項目通りに円グラフで表しましたが、G「その他」を除く7つの選択肢はおおまかに3つに分類することが出来ると思います。
@就労
A子供の将来(就学・出産・子供の将来)
B自分の体の事について(治療にまつわる悩み・主治医との関わり)
 ここでは、結婚、就学の項目は40代50代の方の回答にありますが、ご本人のものではなく、お子さんの問題として判断しました。

 図4、図5をご覧ください。この様に大きく分類し直して、男女比で見ると問題点が異なる事がはっきりと分ります。女性の場合は経済的なことよりも自身の病気及び治療に、男性の場合は就労に関心が集まっています。男性の抱える問題は、一家を支える主生計者としての責任、自分の病気のことよりも先に生計を立てなければならない、という重圧がこのグラフからはっきりと読み取れます。就労イコール収入なのです。病人といえども生きて行かなければならないのですから、就労問題は解決しなければならない深刻な問題と言って良いのではないでしょうか。雇用問題というと、

障害者基本法の(障害者基本法には雇用の促進)
第15条に
2.事業主は、社会連帯の理念に基づき、障害者の雇用に関し、その有する能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理を行うことにより、その雇用の安定を図るよう努めなければならない。
3.国及び地方公共団体は、障害者を雇用する事業主に対して、障害者の雇用のための経済的負担を軽減し、もってその雇用の促進及び継続を図るため、障害者が雇用されるのに伴い必要となる施設又は設備の整備等に要する費用の助成その他必要な施策を講じなければならない。


 という文言があります。日本は法治国家ですから、法制度に組み込まれるためには、神経難病患者唯一の手立てである身体障害者手帳を取得する事が、大きな意味を持つと言えないでしょうか。まず法制の問題です。現在の障害者基本法と障害者雇用促進法では、身体障害者と精神障害者の列挙型の『障害者の定義』がなされていて、我々パーキンソン病を始めとする『難病患者』は、法律上は障害者に含まれていないのです。かろうじて、障害者基本法の付帯決議の中で難病に触れられているに過ぎません。私たち神経難病患者は、この付帯決議を根拠として、身体障害者手帳を手にすることにより、はじめて行政にものが言える土俵に立てるのです。

 今回のアンケート調査によると、身体障害者手帳の取得率が約56%、手帳所持によって受けられるサービスに満足していますかという問いに、約57%の方が満足しているとの回答でした。この結果は予想に反する数字でした。不満と答えた方については、その不満とするところは、殆どがタクシーチケット・交通費の割引き率また税金の軽減に関することでした。

 私は皆さんにお尋ねしたいと思いました。身体障害者手帳は、交通費や税金の軽減のために取得しているものでしょうか。身体障害者手帳取得によって、私たちは障害者として、福祉サービスを受けられる権利を与えられます。言い換えれば、難病患者というだけでは、福祉の対象には成り難いのです。手帳を取得しているということは、公に障害者基本法という法律で保護される大きな意味合いを持つものだと言うことです。そして、皆さんに認識して頂きたいのは障害者手帳の取得により、雇用問題に改善を求める権利をも与えられたと言えるのではないかということです。

図6をご覧ください。

(図6)
図6

 アンケートの回答の中で、「退職の理由は」という問いに対して、『症状の悪化』として、いたたまれなくなり辞めざるを得なかったとか、病状の不安から再雇用を希望しない等の回答が見られ、アンケートの結果から垣間見える、パーキンソン病患者の追い込まれた状況は、障害者雇用促進とは大きなずれを感じずにはいられません。深刻な状況にありながら、身体障害者手帳を手にし満足しているとの回答に疑問さえ感じます。

 若年性部会としては、基本法の定義に難病も加えて欲しいと希望してきました。
 交通費や税金の軽減のために、法制化を求めて来た訳ではありません。本当に大変なところにおかれている雇用問題の解決のために願ってきました。アンケート調査によると、特定疾患治療研究事業の認定率も、パーキンソン病の場合約88%で、満足度も約72%を超えていました。友の会会員を対象にしたアンケートですから、一概には言えませんが、パーキンソン病の患者は恵まれているとさえ思えたからです。

 その様にアンケート調査の結果によると、一方では手帳制度や医療費助成についてかなりの満足度がみられ、他方では深刻な雇用状況が映し出されている。この矛盾の原因はどこにあるのでしょうか。悩みながら分析を進めていくうちに、私は、ただ単純に雇用促進を訴えても無意味だと気づかされたのです。
 企業は進行性の難病患者の雇用に難色を示しています。それは、企業側として当然の事だと私も考えます。

 皆さん、考えてみてください。例え、運良く貴方を企業が雇用するとなった場合、貴方は健常者とともに肩を並べ企業に貢献できますか。病気でこれ以上はという限界を感じ、退職を選ぶところまで追い込まれ傷ついた者が、もう一度企業に戻っていけるでしょうか。その様な状況で雇用、雇用と叫んでも、私たちの状況がよくなるとは到底おもえないのです。結局、問題は、私たち自身が抱えているのではないでしょうか。 自分の病気と8時間労働という過酷さに折り合いがつけられない不安が、根底にあると思います。

 私たちは病人です。難病患者にとって、健常者と肩を並べて同じ条件で働くことは無理と言わざるを得ません。
 私は、単純に雇用を願うのでなく、病気の特質などを考慮し、進行性の患者に合った無理のない職場や勤務形態を見い出し、要求し、それによって社会貢献の機会を頂くことを願います。
 私たちには8時間労働は無理でも、パーキンソン病のオンとオフがはっきりしているという特質を考えると、2時間3時間なら、薬も増やさず就労できるのではないでしょうか。

 就業に合わせるのでなく、自分のリズムに仕事を当てはめる。極論かも知れませんが、病人のわがままではなく、障害者としての難病患者の当然の権利として、政府と社会に要求すると共に、それによって、社会の歯車のひとつとして、社会に貢献と喜びと感謝を返えす事を目指したいと思います。そのような要求と貢献のバランスを保つ社会参加を、今後の課題とし、取り組む事を提案します。

岩越純子

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