3_5.下駄履きで寝るアイデア
 「こんにちは、保健婦の中本ですが、お邪魔します」と、突然、保健婦さんが訪ねて来られました。「奥さん、お加減は如何ですか」妻が「調子が悪くて困ってる」と答えると、暫く世間話をして、妻をリラックスさせ、いろいろと近況などを聞いていました。私に「奥さんの身体障害者手帳を見せて頂きましたら5級なんですね。これはちょっとおかしいですね。今の状態では2級以上ですね。申請し直して級を上げて貰った方が良いですよ」「看護婦さんにも言われたのですが、妻の気持ちを思うと、自分でも病気が大分進んでいるのを気にしているのに、2・3級に認定されたら、益々病気が重くなったように思い、気持ちの落ち込むのが怖いから、そのままずーっと来てるんです」「旦那さんの気持ちは分かるけど、それは少し違うと思います。パーキンソンは治療してもすぐ治るという病気ではないから、1・2級取るためのステップとして、少なくても3級は取った方が行く行くはいいですよ。是非申請して下さい」「そうですね。今度病院に行った時に相談してみます」「是非そうして下さい。では今日はこのへんで失礼致します」「どうもお忙しいのに有り難うございました」。すぐにも申請しようかと思いましたが、急いでやる事もないだろうと、そのままにして置きました。

 またもや夜中に起こされました。「お父さん、足がくっついて変。それに布団が重たいから少し剥いで」。羽毛布団を使っているから重たいという事はないだろうと思いながら、足を見たら、親指と親指が重なり合って、ふくらはぎの筋がつるんでしょうか、足の甲が背伸びをしたように真っ直ぐになり、足の指が内側に強く曲がっていました。いつものように揉みほぐし「静かに寝ろ」と言って寝てしまいましたが、それからはたびたび「足がくっついて変だ」と夜起こされ、これでは寝不足になってしまうと思い、何か良い方法はないかと思案に暮れました。

 ふっと思い出しました。柔道の稽古中、足を捻挫した時、医者に行ったら「ギブスをした方が良いですね」。と言われましたが、そんな事をしたら仕事にならないので、包帯をして帰って来て、厚めの靴下を履き、ブーツを履いて仕事をしました。案外調子が良く、その後医者にも行かず、シップを当てながら自分で治した事がありました。妻にも履かせたら足の変形に良いのではないかと思い、早速履かせて寝かして見たところ、見事図に当たり、その夜からは何事もなく、ぐっすり寝かして貰いました。

 しかし物がブーツなので、通風性がなくて足が蒸れる欠点があり、快いとは行きませんでした。良いアイデアなので、いろいろ考え試作をした結果、板をL字型に作り、その板に、女物のサンダルをハ型の反対に固定し履かせたところ、大成功でした。板の高さが幸いし、布団が直接足に着かないので、布団が重いなどと言わなくなり、足の変形も多少抑えられたので、一石二鳥、私にしては傑作だと思いました。

 それからは、それがないと安眠出来ず、うっかり忘れると「お父さん下駄を履かせて」と言うぐらい、その下駄を頼っています。「お前は殆ど歩けないから、夜だけでも下駄を履いて外を走り回る夢でも見ろよ」と言って、下駄を履かせてやりました。それが現在でも続いております。

 ある通信販売で良いものを見つけました。それはたばこ大(弱)の無線呼び鈴でした。「移動する時は必ずこれを持って行け。これはSOSだから用のある時に使え」と渡しました。突然リリリンとベルが鳴ったので急いで行って見ると「ごめん、うっかり押しちゃったの」てな具合で、これも重宝しています。

 何が良かったのか未だ分かりませんが、笑顔を取り戻し、顔色も良く、たまには冗談も出るようになり、退院した時の状態とは雲泥の差、もう少し良くなれば私も楽になれそうです。思うに20年近く患っているため、開き直りもあるのか、また病院の先生が言ったように、パーキンソンとすっかり仲良く出来たのではないかと思います。