4_1.母が体の不調を訴え、食事も減る
 母は先に立ってお店を手伝っていましたが、90歳を過ぎてから段々と体が衰え、気ままに生活をするようになり、気分が良い時には厨房に入り洗い物など手伝ってくれました。妻が病弱のため、母には大変助けられ迷惑も大分かけてしまいました。

 平成5年の夏頃から体力が急速に衰え、お風呂に入るのも大変になって来ましたので、一緒に入り背中など洗っていましたが、自分では全然洗う気がないので、頭から足の指先まで洗ってやるようになりました。「ああ、久し振りに洗って気持ちが良い。有り難う」と喜んでいました。

 母の入浴は3、4日おきに一緒に入れば良かったのですが、妻の方は大変でした。四六時中おむつをしているので、体が臭いので毎日風呂に入りますが、一人では入れず、私と一緒に入ります。湯船につかっている時、頭をちょっと押しただけでブクブクと沈むほど体力が衰えて来ました。自力で着替えが出来ませんので、体を良く拭き、おしめをしてパジャマを着せ、寝かし付けます。さて、これからが私の自由時間ですが、何をするにも時間が遅過ぎます。結局、時間をかけて晩酌をする日々を送っていました。

 平成6年の夏頃から、母が体の不調を訴えるようになり食事が段々少なくなり、少しずつ痩せ始めましたので、掛かり付けのお医者に診て貰いましたら「今年の夏は非常に暑かったので、夏負けでしょう」ということで余り気にしませんでした。しかし、ご飯を少し食べただけで「もういいや」と箸をつけないので、どんどん痩せて行きました。

 医者に行き「先生こんなに痩せるのは尋常ではないですよ」と言うと、暫く診察して「胃にしこりがありますね。専門の胃腸科を紹介しますから、一度そちらに行ってみて下さい」。早速専門医に診て頂き胃カメラで検査した結果、十二指腸潰瘍と診断されました。「では薬を出しておきましょう。食欲が出る薬も入っていますので、暫く様子をみましょう」。痩せる原因が分かれば、医者に任せ、ゆっくり養生すれば良いと思い帰って来ました。

 「ジジジ」お手洗いのブザーが聞こえたので行ってみると、母が「てるを、ウンコが一週間出ない。浣腸でもしてみるかな」「どれどれ、ちょっと見せて」と、肛門の回りを触ってみたら、コチコチなので、浣腸して暫く待っていましたが一向に出ません。「おばーさん、ちょっと待ってて」と言い、使い捨てのビニール手袋をして人差し指で少しずつほじくり出しました。固いのを出すと後はドドドと一気に出ました。「ああお腹が、すーっとした」と先ずは一段落。妻が便秘で苦しんでいましたので、こうした事は、もう慣れたものです。

 薬が良かったのか、お腹がスッキリしたのか、それからは食欲も出て来て、少量ながら食事を取るようになり、これは良かった、気丈な母だからすぐ良くなると思っていましたが、年が明け4月に入ると、全然食事を取らなくなりました。

 「おばーさん、ご飯を食べられないのなら、入院してよく診て貰った方が良いと思うよ」「入院なんかやだ。どうせ死ぬのなら、ここで死んだ方が良い」「なに言ってるの。病院に行けば必ず良くなるし、好きなお寿司だってすぐ食べられるようになるよ」「絶対入院しない」「そう。何か食べたい物がある」「少し暑いから氷がいい」氷だけではしょうがないのでヤクルトを持って行き「ヤクルト飲む」「うん」半分飲んだら「もういいや氷くれ」氷を口に入れてやったら「ああうまい」と美味しそうにしゃぶっていました。

 10日頃「てるを便所へ連れてってくれ」「はいよ」とトイレに行き便器(洋式)に座ったとたん、ジャーとオシッコをしたと思った。小さな声で「気持ちが悪い」と言ったので顔を見たら、顔が真っ白。色白の母が血の気を全く失ってしまっている。これは変だと思いシャワーでお尻を洗い、拭こうと思ったら一瞬息が詰まった。便器の中が墨を流したように真っ黒。それを見て二度びっくり、体が固まり、何をして良いのか分からず立ちすくんでしまいました。

 とりあえずおむつをし、そっとベッドに寝かし、医者にすぐ連絡を取りました。状況をよく説明し、どう処置したら良いか聞いたら「早急に輸血をしなければならないが、急で準備が出来ないから、明日の朝来て下さい。今日は静かに寝かしといて下さい」との事でした。一人では心細いので妹を呼び相談しました。

 明くる日、早速病院に行き輸血をして頂きました。先生は「入院しても良いのですが、おばーさんが寂しいだろうから、このまま帰って、明日この時間に来なさい」とおっしゃった。一応家に帰って来て「おばーさんリンゴジュースでも作ろうか」「何も要らない。氷を少しくれ」と、全く元気がない。輸血を3回ほどしたら、大分顔色が良くなり幾らか元気が出て来ました。

 4日目の朝「おばーさんの具合はどうだ」と、すぐ上の兄貴が訪ねて来ました。「余り調子が良くないの」と、今の状態を説明し「せっかく来てくれたのに、これから病院に検査に行くところなの」と言うと「今日は休みを取ったから一緒に行ってやるよ」。これはちょうど良かったと思い一緒に行って貰いました。