今日初めてスキーをする人(大人)への指導展開の実例
(初心者への指導 独自論)


(はじめに)

1980年代前半に読んだ本の中に、「スキーは右脳でうまくなる・・・」という内容の本がありました。当の本は今は手元にないため、本のタイトルや出版社名は失念しています。
私の記述内容がこの本にそっくりだ!と、ご存知の方がいらっしゃいましたら、教えてください。

雪が降ったらスキーをする、雪国に生まれ育ったら、誰もが滑っていたスキー。
都会の人たちも、夜行列車で行く山だから、最低でも1泊し、日中のスキーだけでなく、酒を酌み交わし語り合った夜・・・。

今はどうでしょうか?

スキーの楽しさ・・・。自己実現をする喜び・・・。
スキー場に訪れるスキーヤーを増やしたい。
スキーをしたことがない人にスキーをしてもらいたい。
そんな人たちを支える指導者たちに、私が実践してきたことが「ヒント」になれば・・・。

なんだ、こんなに簡単にできるのか。そんな体験をする人が増えてくれたら・・・。
冬になればスキーをする、そんな、「文化としてスキーをする」時代になってほしい・・・。


 

Contents

1 用具に慣れることとイメージ作り

2 足場を作る勇気

3 止まって安心

4 どんどん移動

5 指導者の方へ

6 プルークの直滑降から進行方向を変える(一番最初に覚えたいこと)


 

1 用具に慣れることとイメージ作り

1)装備の点検

とても大事です。ビンディングの開放具合など。さらに、私はスキー靴のバックルの締まり具合に注意します。痛くなるのは締めすぎですが、痛くなる手前まで締めることを覚えてもらいます。これから行う「スキーへの力の伝達を良くする」ことで、ブレーキをかけたい時に思ったとおりに利くようになり、怪我の防止にもなるのです。
場合によっては、痛さ具合を聞きながら締めてあげます。

2)用具に慣れながらイメージ作り

★両手にストックを持ち、スキーを着けずスキー靴で歩く。
★片足だけスキーを着けて平地を歩く、滑る。

★次に片足だけスキーを着けたまま、ごくゆるい斜面を階段登行します。
スキーを着けた足を谷足にして、斜面を登っていきます。
この時、ゲーム感覚で会話をしていきます。

階段登行をしている時に、
「スキーの滑走面を雪面にピッタリつけた所を【0】とします。スキーを傾けて、もうこれ以上傾けられない所を
【10】とします。さて、10段階を自分で刻み、どの値だとズルズル谷へ横滑りしてしまい、どの値だと足場がしっかりするか、感じながら登ってください。」

角度はいくつ?

するとどうでしょう。それぞれ自分の角付け具合を見事に感じていきます。そして、私は【5】だ、【4】だ、【3】だとかを言葉で表現してくれます。

もちろん、答えはどれもが正解です。間違いなど無いのです。足場がしっかり取れているのですから。

滑り手が自分で感じ、そして考え、その結果を次はこうしたい、という所へ導いてあげる。「そうだよね」と共感したいと思います。

さて、ここで終わってはだめで、続けて、
「先程、自分が【5】だと思った所を【10】とし、改めて10段階を作ってみてください。そして先程と同じようにズルズル横滑りしてしまうところと、足場がしっかりするところを感じてみてください。」

この「2回目」をすることで、「発展する」ということを感じていただきます。

1回目より1メモリの分量が小さくなりますので、微妙な角付け具合の変化を感じとる作業になります。あくまでも「言葉」で考えさすのではなく、見えない足場をイメージする、気配を感じる、という作業を通じ、自分が「こうだろう」と思ったことと、「こうなってしまった」ということの差を感じていただき(フィードバック)、「次はこうしよう」(フィードフォワード)ということに対し、「うまくできた」という満足感になっていくのだと思います。

(2006.6.16)
(2006.10.16追記)
【参考文献】
インナースキー(Inner Skiing 自然上達への最短距離 W.T.ガルウェイ、B.クリーゲル共著 後藤新弥訳)
日刊スポーツ出版社

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2 足場を作る勇気(階段下降)

初歩動作の一つに、片足だけスキーをつけて階段登行(のぼり)をする訳ですが、登ったら下ります。
その時どうしてますか?

下りこそ、時間をゆっくりかけて、じっくり感じてもらいます。

よく考えてみると、

足場のない未知の世界に谷側の足を伸ばし、
そろりそろりと探りを入れ、
よしここだと思い、角付けを調整しながら自分の体重を預ける、
そしてそこに立つことができるバランス。

この作業は、上手な人がターンをする時の、足場作りに何か似ていませんか?

「ボールが転がっていく方向に対して、スキーの向きを直角に」、下るためにはこの意識も大切ですね。

片足の初歩動作に慣れてきたら、両足にスキーを着けます。
そして、登行ではなく、下行をしましょう。(私は「階段下行」と呼んでいます。)

ごくゆるい斜面から中斜面まで、何もないところに足場をとる作業をしましょう。

次の段階の、「止まったり」、「落ちていく方向を調整したり」する時に使える「足場作り」が習得できます。

(実際に斜面を移動します。斜面を上から見た目標地点と、到着した時に見上げる出発点と、斜面というフィールドを感じ取ることになります。「こんなに移動できたんだよ」と言葉を添えて褒めてあげてください。)

(2006.6.17)

【階段下行の具体例】
階段下降で見られる両足荷重のポジションは、パラレルターンへ導く基本ポジションです。
要領としては、
1)リラックスして腰幅程度の広さのスタンスで斜面に横を向いて立ちます。
2)まず、しゃがみます。
3)その位置を保持したまま、谷側の足を浮かし、空中で「長い足」にします。そして雪面に着地します。
4)まだ、山側の足で身体を支えていて、谷側の足には荷重感がないところ。しゃがんだ腰の高さを変えないように、少しづつ谷側の足でも身体を支えるようにします。2つの脚で自立できるところがチェックポイントです。
5)谷側の長い足で支えた上体を起こしていくようしながら、重心を谷側へ移動していくと、元の高い姿勢に戻り、1歩斜面の下に降りています。歩幅もとれるので、移動時間も短いでしょう。

上の写真は今日はじめてスキーをされた方で、初歩動作を小一時間体験していただてから、初めて斜面にデビューして10分後に、「中斜面を階段下降する姿」を撮影したものです。

「広いスタンスでパラレルターンをしているポジションにですよ。」と説明しておきますと、初歩滑走の経験の中に「フォールラインを向いたところから、降りながら向きを変えていくところ(山回りの部分)で、先ほどの階段下降の時のポジションを当てはめてみましょう。」と少し難しい課題にトライしても、具体的に運動をイメージする(直線的な移動方向から、回転しながら移動する)ことができますので、2つの脚にしっかりと荷重した安定したターンが生まれ、片プルークのポジションがパラレルターンへ導いてくれます。
指導者は環境を整えてあげ、未来を見据えた体験と言葉を提供していくことで、受講生は短時間で上達していきます。個人差もありますので、焦らず、ゆっくりと見守りましょう!

まるで、ゆるい角付けの内足と、強い角付けの外足のように見えますね。

ターン中に使える片プルークのポジションと、ターン外足への荷重感を体得するには、階段下行が最適だと思います。

(2013.12.31)
(2016.1.26 「ターンポジションの原点 階段下行」に動作要領の解説を追記しました。)

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3 止まって安心

止まるためにはスキーの後ろ側を側方に動かし、カタカナの「ハ」の字になるようにします。もちろん、初めは平地で練習。

初心者はそのまま足を動かそうとしてスキーがひっかかりバランスを失います。まず、脚部の屈伸だけ練習します。それから、脚部の屈伸に足を広げる動きを加えます。重心位置を下げながら足を動かすと、スムースにいきます。

足を横に広げるのですが、股関節が柔らかい人の場合、どんどん広がっていきます。途中で止めないとブレーキがかかりませんから、広げればいいという訳にはいきません。

動かすスキーに力が伝わっているかを見極めます。

*

(1)真っ直ぐ滑って停止

ごくゆるい斜面で、ボールが転がり落ちる方向に滑り出し、「ハ」の字に開きブレーキをかけて止まります。
左右均等の力配分を感じ取っていただきます。
ちょっと急かな?と思ったら、迷わず「階段下行」で下ります。
真っ直ぐ滑って停止
うまくできてきたからと、先を急いではいけません。

*

(2)斜めに滑って停止

真っ直ぐ滑って停止」ができたら、次は「斜めに滑って停止」をします。

斜めに滑って停止

斜めに滑るには、左右均等の力配分を崩したところのバランス感覚を感じ取ることになります。
そして、「ハ」の字に開きブレーキをかけて止まります。

ここでも、うまくできてきたからと、先を急いではいけません。

*

(3)組み合わせ その1

斜めに滑り出し、途中からボールが転がり落ちる方向へ滑り停止」します。

斜めに滑り出し、途中からボールが転がり落ちる方向へ滑り停止

上記の(1)+(2)ということですね。
難しい言葉の説明は要りません。顔を上げ、谷の方を見たら、自然と落下していきます。「自然と」というのがいいですね。

まだまだ、うまくできてきたからと、先を急いではいけません。

*

(4)組み合わせ その2

真っ直ぐ滑り出し、途中から斜めの方向に滑り停止」します。

真っ直ぐ滑り出し、途中から斜めの方向に滑り停止

上記の(2)+(1)ということです。これは自分で滑って行く方向を調整しなければいけないので、難しい操作です。

真っ直ぐ滑る方向」に顔を向け、滑る方向を見続けます。
そして、途中で次に進む「斜めの方向へ」視線を移します。
先に滑った指導者が「はい!こちら!」と声をかけることも効果があります。

以上、4つの停止の練習をします。この4つの停止がうまくいけば、「どこでも止まれる」という自信になります。

(2006.6.20)

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4 どんどん移動

指導の原則の一つに、「やさしいものから難しいものへ」というのがあります。

「滑らかに動く、ゆっくり動く」 = 「調整力が必要な動き」は、ある程度経験を積まないとできないことです。
初心者にとってそれは「難しいこと」です。
「丸い回転弧を描きましょう!」なんていうのは、指導者のエゴです。

滑らかに動けなくていいんです。ぎこちなくて、エイ!ヤッ!ってタイミングをとってもいいんです。
まずは、転倒せずに斜面を移動するといことが最大の目標です。

どんどん移動
どんどん移動

「どこでも止まれる」という気持ちを持って、「真っ直ぐ滑る」と「斜めに滑る」で斜面を下っていきます。
顔を上げ、まわりの景色を見ることも、感じてもらいます。

滑り手の運動経験などからの個人差が沢山でます。
結果を追い求めるのではなく、「滑り手が感じる」ということを手伝い、活動エリアをどんどん広げてあげましょう。

(2006.6.23)

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5 指導者の方へ

ひよこが最初に見た動くものを「親」と認識するそうです。(刷り込み)

人間の場合はそんなことはありませんが、初めて行うスポーツの出会いでは、その時の印象は後々まで影響するものです。目標は、「受講者の感覚を育てる」に尽きると思います。焦らず、じっくりと、笑顔で見守りましょう!

この段階の人にとって必要なことを思い描いてみてください。

それは、どの段階の人にとっても必要なことなのです。
忘れている何かを思い出すはずです。
自分自身の技術向上の底辺を広げる効果があると思います。

そして、皆で、初めての方への指導をしましょう。
スキー場の閉鎖を食い止めるには、スキー人口を増やすことです。スキーをする人を増やしましょうよ。

(2006.7.1)

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6 プルークの直滑降から進行方向を変える(一番最初に覚えたいこと)

初心者にとっても、ベテランスキーヤーにとっても、速く滑りたいレーサーにとっても、「3−(2)組み合わせ その2」の場面を、どう対応するか、を見つめてみると良いと思います。

(1)フォールラインを向いた位置から回転する様子を上空から見てみる

山回りでの対応(1)

【A】は、スキーをハの字にキープしながら、斜面の最大傾斜線(フォールライン:平らな坂でボールを放ったら転がっていく方向)に向いた時の模式図(上空から見た図)です。
両足は腰・身体の横にある感覚、両足の 真ん中に腰・身体がある感覚です。そこから身体をどう動かすか?、ということが課題となります。

【斜面への落下と身体運動を合わせる】
ターンの外側の足(斜面を落ちていくと谷側に位置する足)、これを股関節から円錐方向に動かすことを意識します。
この動きは、準備体操の時に、片足で支持した状態で、宙に浮いている脚側の股関節を伸展させ、足を身体の少し後ろ側に位置させ、スタート位置とします。 そこから脚が円錐を描くように、脚を外側に回し身体の横に来ることを意識していただき、そこからさらに円錐運動を続けると、身体の前に足が来ることを感じていただきます。
このように事前に体験していただいていると、この局面で再確認すると、股関節を動かすイメージが斜面の中で意識できます。

次に説明することは、【B】です。
運動会で一列横隊に並んだチームが、グランドを一周するとしたら、回転する外側にいる人は内側の人より沢山進まないと、一列がキープできず、ギクシャクしてしまうことになります。
これを説明し、具体的な身体運動を説明する時に、「ターンの外側の足(ブーツ)を前に出していくんですよ」という、「曖昧な説明」をしてはいけません。
「自分のブーツの長さ(あるいは足の長さ)は何センチですか?その半分の長さだけ前に位置するように、少しづつ前に出してみましょう」と、具体的にどれだけの量を前に出していくか、のイメージを持ってもらってから、動いていただくのです。しかも、「エイ!ヤッ!」と瞬時に動かすのではなく、時間をかけてゆっくりと動く、時間的なイメージも重要です。

この結果、積極的に谷側の足(ブーツ)が自分より前に位置することを感じるとともに、現場は斜面なので、重力方向に対して身体を支える場所に、外足(ブーツ)は運ばれるのです。
すなわち、不安定になる時間をわずかにし、回転しながらすぐに身体が安定できる足場が出現するのです。
また、不安定になる時間帯が少ないので、転ばなくなります。

この足(ブーツ)の位置は、結果的に、次のターンへ行くための切り替えを間髪入れずに開始できることになります。
また、この位置に足(ブーツ)があれば、すぐに「横滑り」を開始することができます。
2015年現在、SAJ教育本部の指導者資格者検定にある横滑り種目は、横滑りと横滑りをターンでつなぎながら降りてくるのですが、ターンから横滑りへスムースに移行できない方は、股関節の球運動と足(ブーツ)を落としていく動きを、イメージできていないのでしょうね。

(2)フォールラインを向いた位置から回転する様子を進行方向から見てみる(脚の長さに着目)

上記(1)を経験し、転ばずに移動することができるようになってきたら、もう一つの課題(意識)を、先ほどの動きに加えていきます。

スキーヤーを進行方向の正面から見た図:脚の長さに着目 

【A】は、スキーをハの字にキープしながら、斜面の最大傾斜線(フォールライン:平らな坂でボールを放ったら転がっていく方向)に向いた時の模式図(正面から見た図)です。
両脚を同じ長さにキープすると、腰(重心)は両足の中央に位置し、両足でブレーキが良く効き、次に来るシーン(ターン外足が谷側へ落ちていく)準備が整う。

【B】は、ターン外側の足を谷側へ落としながら少し前に位置させる動きに合わせて、山側となるターン内側に脚を少したたむように動かす課題を加えます。
このシチュエーションで初めて体験するのであれば難しい課題となりますが、先ほど「階段下行」で成功体験がありますから、2つの動きをコーディネートすることは難しくないはずです。

このシーンの課題をすぐにできるようになるために、最初に「階段下行」にトライするのです。
本当に必要な基本的な体験をしておくと、自発的に「運動の調整」を行うことが容易となります。

山側の脚をたたむタイミングがうまくとれないと、【C】の状態になります。
与えた課題ができないからと、指導者が「そうではなくて、こうしましょう」と、体験したことを否定してはいけません。
この【C】状況での「谷足と重心の位置」は、基底面積が狭い難しい状況です。そのような状況でバランスが取れたのですから、褒めなければなりません。
また、【C】のバランスは、シュテムターンのカリキュラム、横滑り、パラレルターンと共通するものです。初心者にとっては難しい課題です。「慣れてきたら次の課題として取り組むことになりますよ。」と予告すると、肯定的な経験として記憶されるでしょう。

この練習に慣れてくると、指導者の直後に学習者を位置させ、良い見本を提示しながら真似てもらうことで、運動要領に習熟していきます。時には前後を入れ替え、後ろから観察しながら、声掛けをすることで、学習者が自発的な運動を行う感覚が育まれます。
所々で休憩を入れながら、リフト乗り場まで転ばないで滑りきることを指導者の目標にして、下に着いたら、「あそこからここまで、転ばずに降りてこれましたよ。」と褒めてあげましょう。

私の場合、2時間の講習会で、平地や斜面での初歩動作、リフト乗って約60分、斜面での階段下行で10分、残りの50分でリフト乗り場に到着することを指導目標としています。そして残り20分を残して到着したならば、迷わずに2本めの滑走へリフト乗車します!

(2015.9.21)

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