3_2.「世話の焼き過ぎ」と看護婦さん
 平成2年3月20日いよいよ武蔵病院・神経内科へ入院する事になりました。直接病棟に行き「こんにちは、今日入院することになっている桜木ですが」「ハイお待ちしておりました。こちらへどうぞ」と看護婦さんにミーティング室へ連れて行かれた。暫くしてから「お待たせ致しました。ここまで歩いてこられたのですか」「いいえ病院の車椅子で来ました」「是非お聞きしたい事がありますので、そこへお座り下さい」。今までの病状の経緯などを詳細に聞かれました。病室に案内され、30分ぐらいいましたが、別にこれといって用がないので「さあ帰るか。必要な物があったら電話しろ。来週の午後来るから元気で頑張れ。じゃ」「うん、どうも有り難う」と別れました。

 その後、毎週木曜日に見舞いに行きましたが、これと言って変わりなく、5ヶ月たったある日、看護婦さんに「旦那さん少しお話があります」と看護婦室へ呼ばれました。「奥さんの事ですが、薬の調整が出来て来まして、後はご本人の気持ち次第で、近いうち退院出来そうですが、ひとつ問題がありまして、奥さんは何をするにも人を頼り過ぎる。ブザーが鳴るので行ってみると、自分で出来るような事も私達に頼むのですよ。旦那さんを見ていると優しそうだから、何でもやって上げるのでしょう。この病気の特徴は無気力になりますから、可哀相なようでも、自分で出来る事は自分でやらせる事が、リハビリにもなり、やる気にもなるの。本人のためにも良い事だから、余り手を貸さない方が良いですよ」「ハイ分かりました。自分は短気ですので、ノロノロやっていると気分が落ち着かないので、どうしても手を出してしまうのですね。これからは気をつけます」と言い看護婦室を出ました。

 病室に戻り「そろそろ退院できそうだって。家へ帰っても余り世話をやかせないように、自分で出来る事は自分でやるようにして、体を慣らし退院出来るように心掛けなければだめだよ」「看護婦さんが何か言ったのでしょう。前みたいに手に力が入らないの。何とか歩く事は出来るのだけど、ベッド生活なので体力が凄くないの」「しょうがない。焦らずゆっくり養生するしかない。また来週来るから元気出せや」「有り難う。頑張ってみる。じゃーね」。

 「てるをちゃん、敬子さんが入院したと言うけど、どうなの」と近所の親しい奥さんに話し掛けられた。「まあ相変わらず。でも近いうちに退院出来そう」「そう、それは良かった。てるをちゃん、私が見ててね、敬子ちゃんを余りにも大事にし過ぎる。病気が悪くなって行くのも、てるをちゃんにも責任があるかも知れないよ」と指摘された事がありました。看護婦さんと同じような事を言われた訳です。

 自分では面倒を見てやろうとか世話をしようなどとは、考えた事はない。ただ自分に悔いのない人生を送って行きたいから、一日一日を精一杯過ごしているだけの事で、一時はどうして俺がこんな苦労をしなければならないのかと思った時期もあったが、最近では嫌な事は、その日のうちに忘れ、今日は今日で心新たに、一日を送るように心掛けているのです。そんな気持ちにさせてくれたのは、あのおばさんの助言があったからだと思います。