3_1.入院して体を立て直す努力
 昭和から平成と年号が変わりましたが、妻の症状は一向に変わらず、小康状態が暫く続いていても、少しづつ悪くなって行くようです。この病気は不思議と2年周期に必ず悪くなって行きます。平成元年11月に、長らくご厄介になった先生が京都の院長に就任して行かれましたので、後任の春原先生に診て頂く事になりました。妻は後遺症が幾らか和らいだものの薬の効き目が非常に悪く、自力では日常生活が出来ず、介護なしではトイレにも行けなくなって来ました。3月の初旬、診察を受け相談すると「大分ここのところ悪いですね。ちょっと待ってて下さい」と奥へ行って、何か相談されているようでした。「今病室の方に連絡したらベッドが空いていると言うから、暫く入院して少し体を立て直しましょう」とおっしゃった。急な事なので妻は俯いて黙って涙を浮かべているだけでした。

 「今飲んでいる薬は良い薬だけに麻薬的なところがある。薬が切れた時に飲むと、凄く気持ちが良いから、勝手に薬を増やしたんでしょうね。それだけに後遺症も強くなって来たのでしょう。奥さんはまだ若いのだから、このままだと体がガタガタになってしまう。それに薬の量が少し多過ぎる。暫く入院して薬を半分ぐらいに減らしましょう。処方箋を見ると、減らしても差し支えない物も幾つかあるから、それから減らして行きましょう。分かった?奥さん」。妻は薬を減らすのが不安なのか、小さな声で「ハイ」と言っただけでした。

 前の先生と全く同じ事を言われました。私は薬の量を増やしていた事は知っていたが、安易に考えていました。「この病気は一生付き合って行かなければならないから、奥さんもパーキンソン病という物をもう少し理解して、パーキンソン病と仲良く共存して行くつもりで、気持ちを転換して、もっともっと仲良くして付き合って行きなさい。ご主人、入院の手続きをして、なるべく早く入院して下さい」。早速手続きを済ませ帰りましたが、妻は車中涙ぐみ、一言も口をききませんでした。

 家に帰って来て、少し落ち着いたのでしょうか。ポツリポツリと話し始めました。「皆に迷惑ばかりかけて申し訳ない。役立たずなのに、またお金の掛かる事ばかりして、おばーさんを働かせて入院するなんて心苦しい」「まあ、しょうがない。一先ず来週入院して、少しでも良くなるように先生に任せるしかない。自分の事だけ考えて、先生が言ったように、パーキンソンと仲良くしながら[余り私を苛めないで!!]と、うまく付き合うよりしょうがないだろう」「ハイ分かりました。お父さん、悪いけど、必要な物を揃えたいので、一緒に買い物に行ってくれる」「いいよ今日のうちに揃えちゃおう」。午後の体調の良い時間を見計らって、買い物に付き合った。三月(みつき)振りの外出だったので、帰りに友達の喫茶店に寄った。久し振りのデートに、妻も幾らか気分が晴れたようでした。