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免疫抑制療法中の新型コロナウイルスワクチン接種について


 新型コロナウイルスワクチン接種については、65才以上の高齢者に続き、一般の方への接種も始まろうとしています。(2021年6月10日現在)再生不良性貧血等の患者さんにとって、ワクチンを接種していいのか、不安に思われている方もいるかと思います。

 今回、金沢大学名誉教授の中尾眞二先生に、お忙しい中、以下の解説文を執筆いただきました。

なお、接種前には、必ず主治医の先生に相談してください。

 

質問1:

 シクロスポリンを飲んでいますが、新型コロナウイルスワクチンを打っても大丈夫でしょうか?

回答:

 ワクチンの副作用のうち深刻なものはほとんどがアレルギー反応によるものです。これは基礎疾患の有無によらず一定の確率で起こります。再生不良性貧血患者さんでアレルギー反応が特に起こりやすいということはありません。一方、少し遅れて出現する発熱・倦怠感などの副反応は、体内で作られたウイルス蛋白に対する一種の「異物反応」(副反応というよりはむしろ期待する主反応)ですので、シクロスポリンのような免疫抑制薬を飲まれている患者さんでは、その頻度がむしろ低くなる可能性があります。いずれにしても、健常者より副反応が出やすいということはありませんので、普通の方と同じようにワクチンを接種してもらって大丈夫です。

 

質問2:

 シクロスポリンを飲んでいますが、新型コロナウイルスワクチンの効果はありますか?

回答:

 シクロスポリンはTリンパ球の働きを抑える薬ですので、ウイルスに対する免疫を誘導するというワクチンの効果が弱くなる可能性はあります。ただ、副腎皮質ステロイドのように、体の中の免疫をすべて抑える程の強い免疫抑制作用がある訳ではないため、効果が落ちるといっても限定的です。インフルエンザウイルスワクチンに関する過去の研究では、シクロスポリン内服中であっても、内服していない人に比べて、誘導される抗インフルエンザウイルス抗体の量はほとんど変わらないことがいくつかの報告で示されています。

 新型コロナウイルスワクチンの効果にシクロスポリンがどの程度の影響を及ぼすかについてはまだよく分かっていません。最近の千葉大学の研究によると、ワクチン投与後の新型コロナウイルスワクチン抗体の上昇は、免疫抑制療法中の患者さん(9例)では健常者に比べて軽度であったと報告されています。ただし、これらの患者さんは膠原病のような基礎疾患に加えて、副腎皮質ステロイドも併用されている方が多いようです。再生不良性貧血患者さんでは、病気そのものによってウイルス免疫が低下することはなく、またシクロスポリン単独療法による免疫抑制作用は、インフルエンザウイルスワクチンの効果を見てもごく軽度であると考えられます。

 したがって、ATG療法後3か月以上経過し、免疫抑制薬としてシクロスポリンだけを内服している患者さんでは、新型コロナウイルスワクチンの効果はそれなりにある、と言ってよいと思います。ただし、副腎皮質ステロイドや、リツキサンのような抗体療法を最近受けた患者さんではワクチンの効果が著しく弱くなるため注意が必要です。

 

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